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アルスラーン戦記1 王都炎上 第3章

第3章 王都炎上

<感想>
第1巻と同タイトルの章。王都エクバターナがわずかな間に陥落するが、そこに至るまでの描写が丁寧で、陥落が当然と感じることができる。宰相にイエスマンを置き、万騎長を2人残した為に意見の統一もない。万一の場合の権限も定めていないので、全てが後手に回る。サームに権限があれば、エクバターナ陥落は先延ばしできていただろうが、秘密通路を知る銀仮面の男、民衆を捨てて逃げようとする王妃がいる限り、王都炎上は避けられなかった。腐敗した政治では、恩寵を与えられていた者が裏切る。王妃とイノケンティス七世の出会いが更なる波乱を予感させる。


<あらすじ>
 パルス王都エクバターナはルシタニア軍に包囲されている。ルシタニア軍の陣頭に2人の人物の乗った馬車が出てくる。1人は万騎長シャプール。重傷を負い、革紐で拘束されている。いま1人はボダン。ルシタニア国教の大司教にして異端審問官。エクバターナの住民に見えるように拷問を始めるボダンだが、シャプールはエクバターナの人々に自分を矢で射殺してくれるよう頼む。その頼みに城壁上からたった一矢で応えた旅の楽士ギーヴ。王妃タハミーネは謁見の間にギーヴを招くが、ギーヴを見た宮女が昨夜騙されたと王妃に訴える。王妃はギーヴに褒賞を準備するが侍女を偽った分は差し引いて与える。

 その頃、ルシタニアが攻城兵器、塔車を持ち出して侵入を試みるが、万騎長サームは見事な指示で塔車を退ける。一向に攻め込むことのできないルシタニア軍は11月5日、陣頭に百を超すさらし首を並べ、その中には大将軍ヴァフリーズ、万騎長マヌーチュルフ、万騎長ハイルも含まれていた。それを見て、速戦即決を唱えるガルシャースフと東方国境の2人の万騎長を待つ持久戦を主張するサームの意見が対立する。場外からはルシタニア軍がエクバターナの奴隷に蜂起を声高に呼びかけている。エクバターナの大神殿の奴隷が蜂起し、城門を内側から開けようとするが、それを止めようとしたガルシャースフに殺される。万騎長による奴隷殺しを見て、危険を感じたもう一人の万騎長サームが奴隷を解放し、報酬と武器を与えるようタハミーネ王妃に進言するが、王妃は決定できず、以後も奴隷の蜂起は続き、状況は悪化の一途をたどる。

 ギーヴが宰相フスラブに呼び出され、秘密通路を通って王妃を城外に逃がすように依頼される。ギーヴは「王都とは王と王妃あっての名称」と皮肉るが、フスラブは重ねて依頼する。地下水路をギーヴと黒いヴェールの女が歩む。一人の宮女も連れず、ひと声も発しない女にギーヴは声をかけ、彼女を身代わりに王妃は逃亡しようとしていることを見抜く。そこに銀仮面の男と数十人の兵士が現われる。兵士の一人を見て驚き、思わず「万騎長カーラーン様」と声をあげる女。様という敬称をつけて呼ぶ女が王妃ではないと見抜いた銀仮面の男は怒り、即座に宮女を縊り殺すとすぐに歩き出す。ギーヴは制止するが、兵士5人を置いて、銀仮面の軍勢は宮殿に向かう。ギーヴは圧倒的な剣技の冴えを見せ、5人を剣光の下に沈めるが、かなりの時間を要していた為、銀仮面を追うのは止め、王宮に戻り、財宝の一部を頂戴することにする。

 城壁で防戦を指揮するサームだが、王宮で火の手が上がるのを見つける。王宮に駆け付けるサームの行く手にカーラーンが現われ、手勢で包囲する。サームはカーラーンを牽制し、包囲突破に成功しかけるが、銀仮面の男の投槍により重傷を負う。カーラーンが城門を開き、ついにルシタニア軍は王都に突入する。万騎長ガルシャースフが食い止めようとはするが、多勢に無勢。ルシタニア兵の集団に討ち取られる。

 市民を殺し、略奪の限りを尽くすルシタニア人を侮蔑する銀仮面の男。王宮に戻ったギーヴも同様の状況を目にし、ルシタニア人たちから財宝を横取りし、地下水路に戻る。パルス王国に忠誠を誓っているわけではないギーヴもパルスがルシタニア人によって踏みにじられ、掠奪と虐殺をほしいままにするありさまを見て、いつか思い知らせてやろうと決意する。

 王宮内では王妃捜索が始まっているが、見つからない。銀仮面の男は、派手な大神官の法衣を着た男を見つける。大神官は我が身可愛さに、秘密の部屋を教え、王妃を売り渡す。アンドラゴラス国王に続き、タハミーネ王妃もとらえた銀仮面の男は、王妃を連れてルシタニア国王イノケンティス七世に謁見する。模範的なイアルダボート教の信徒で戒律を守り、異教徒の大国を滅ぼすまでは結婚しないと誓っていた40歳の国王は、タハミーネの姿を一目見て、たちまち虜になる。

<登場人物>(登場順。名前のみの登場は後述。)
シャプール パルスの万騎長。アトロパテネでルシタニア軍に捕らえられた。

ボダン ルシタニアの国教、イアルダボート教大司教。異端審問官。

ギーヴ エクバターナの城壁から見事な弓技を見せた旅の楽士。

タハミーネ 王妃。36歳。

フスラブ 宰相。

ガルシャースフ 万騎長。王都エクバターナを守る。速戦即決をとなえる。王都に侵入を果たしたルシタニア軍に殺される。

サーム 万騎長。王都エクバターナを守る。持久戦を主張する。カーラーンと対決中、銀仮面の男の投槍に貫かれるが、一命を取り留める。

カーラーン 万騎長だが、ルシタニアに協力する銀仮面の男と行動を共にする。

銀仮面の男 ルシタニアに協力するパルスの軍装の男。

イノケンティス七世 ルシタニア国王。

宮女 ギーヴに貢がされる。

宮女 タハミーネ王妃の身代わりとなり、ギーヴと地下水路を逃げる。

大神官 

(名前のみ)

ヴァフリーズ 大将軍。アトロパテネ会戦で戦死し、御首級をエクバターナ城外にさらされる。

マヌーチュルフ 万騎長。アトロパテネ会戦で戦死し、御首級をエクバターナ城外にさらされる。

ハイル 万騎長。アトロパテネ会戦で戦死し、御首級をエクバターナ城外にさらされる。

キシュワード 東方国境を守る。

バフマン 東方国境を守る。

英雄王カイ・ホスロー パルス建国伝説に登場する王。