アルスラーン戦記1 王都炎上 第4章
第4章 美女たちと野獣たち
<感想>
タハミーネ王妃に振り回されるルシタニア宮廷、カーラーンの部隊に追われる王太子一行を描きながら、新たな美女ファランギースも登場し、アルスラーンを一党の中核ができるとともに、カーラーンの裏切りの理由も垣間見え始め、面白さが加速してくる章。
<あらすじ>
ルシタニア国王イノケンティス七世に親卒された四十万の兵は、マルヤム王国征服、アトロパテネの会戦、エクバターナ攻防戦を経て、三十万の大台を割り込んでいる。パルス征服に奔走する将軍たちをよそにイノケンティス王はパルス王妃タハミーネとの結婚を望む。何かと聖職者を優遇する王への不満を持つ将軍たちは王弟ギスカールに陳情する。ギスカールは征服計画を立案し、実行し、成功に導き、事実上の王は自身であると考えており、自身の野心のために将軍たちを煽りたてる。信心深くこれまで女性に関心を示さなかったイノケンティス王の心を動かした女性に好奇心をもったギスカールもタハミーネの姿を見て蠱惑されるが銀仮面の男の言葉で思いとどまる。ギスカールは王の結婚に賛意を示すことで王とボダン大司教の間に亀裂を生じさせようと目論む。
銀仮面の男はカーラーンにアンドラゴラスの小せがれ、アルスラーンの捜索を命じているが見つからない。カーラーンは部下よりアルスラーン一行を取り逃がした報告を受け、焦慮と不安に駆られる。カーラーンはルシタニア兵たちの間では裏切り者と表されており、ルシタニア軍と銀仮面の男の一派にはしこりがある。カーラーンはギスカール公爵にアルスラーン討伐の許可を求める。ギスカールはパルス人同士で争ってくれることを期待しており、またパルス人の中でも積極的な協力者はそれなりに遇することも考えており、カーラーンに一任する。
占領下でもエクバターナでは市場が再開される。少女に扮してエクバターナに潜入していたエラムは、カーラーンが千騎以上の兵を率いてアルスラーン討伐に向かったという情報を得る。報告を受けたナルサスはカーラーンのとるであろう方策をアルスラーンに告げる。その方策とは「手近な村を焼き、村人を殺し、王太子が出頭しない限り、それを続けていく」というものであり、アルスラーンは息をのむが、村が襲われるのを防ごうと考える。その考えを聴き、ナルサスは王子の器量が期待通りであることを喜ぶ。
王都エクバターナを脱出し、ルシタニア軍を避けて旅をするギーヴは、男装の美女ファランギースを見つけ、近しくなる為、適度の距離をもって後を追う。ほどなく8騎のルシタニア兵に襲われるファランギースだが、馬技や弓矢で対抗する。見事な技量で瞬く間にルシタニア兵を3人倒す様子を見たギーヴは近づく機会を失しないよう慌てて駆け付け、ルシタニア兵を3人斬り伏せる。ファランギースはギーヴに関心なく立ち去ろうとするが、ギーヴの「絶世の美女!」という呼びかけで足を止める。アルスラーン殿下の御名で寄進されたミスラ神殿の女神官であるファランギースは、女神官長よりアルスラーン殿下を助けるよう遣わされていた。水晶笛を用い、精霊(ジン)の声を聴いたファランギースは、ギーヴのルシタニアを嫌う心に確信を持ち、行動を共にすることにする。そんな中2人は、ルシタニアの旗を掲げたパルス兵の集団、カーラーンの軍を見つける。
カーラーンは一つの村落を焼き、村の男性50人を焼き殺し、アルスラーン王子一行を匿えばこのようになると示す。カーラーンの部隊が宿営しようとした頃、半死半生で荒野をさまよう男を見つける。アルスラーンの荷物持ちに雇われたが、荷物を盗もうとして見つかり、鞭でさんざん殴られたと話す男から「アルスラーン王子一行は4人」「南へ向かった」と聞き出したカーラーンは、その男がナルサスの間者で嘘をついていると考える。実際はカーラーンにそのように考えさせるよう信用のおけそうもない男を雇ったナルサスの計略通りであり、カーラーンの部隊はアルスラーン王子の人数を過大に見積もった上に、森林と山岳が錯綜する地域に誘い込まれる。
森林の中でなんらかの手配を終えたナルサスは女性に襲われるが、襲った者襲われた者ともに互いがルシタニア兵ではないことに気づく。誰何しようとしたナルサスだがすぐに気づき、「アルスラーン殿下に仕えるナルサス」と名乗る。襲った者はアルスラーン殿下に力添えすべく参上したファランギースであった。ナルサスは背後に忍び寄るギーヴを含め、殿下につかえる者は5人になったと告げる。崖の上に立ち、カーラーンの部隊に姿をさらしたアルスラーンは、一人を討ち取り、二人を弓矢で負傷させるが、二本の矢を槍でたたき落とした騎士カーラーンと相対する。アルスラーンはカーラーンに裏切った理由を尋ねるが、カーラーンは嘲弄し、裏切り者と信じて殺されろと告げる。カーラーンの槍の二撃をなんとか回避したところにダリューンが駆け付ける。アトロパテネでダリューンの鋭鋒に屈したカーラーンはアルスラーン討伐を一旦断念する。ファランギース、ナルサス、ギーヴも加わり、深夜の森の中、数人倒しては闇に消えるという戦法でカーラーン軍の秩序は致命傷を受け、隊列が崩れる。ダリューンはカーラーンを追い、挑発することでついに相対する。激高したカーラーンはダリューンにひるむことはないが、やがて頬を傷つけられ、その血で視力を奪われ、ダリューンに落馬させられる。ダリューンとナルサスはカーラーンをとらえようとするが、急峻な地形を転げるカーラーンは頸部に自身の槍が突き通り、「アンドラゴラスは生きているが王位は奴のものではない。正当の王が・・・」と話したところで絶命する。遅れて到着したアルスラーンにナルサスはアンドラゴラス王が存命であることだけ伝える。戦いが終わり、ファランギースとギーヴがアルスラーンに拝謁し、4人だったアルスラーン一行は6人となる。
<登場人物>(登場順。名前のみの登場は後述。)
イノケンティス七世 ルシタニア国王。パルス王妃タハミーネとの結婚を希望する。
タハミーネ パルス王妃。
ギスカール公爵 イノケンティス七世の弟。王弟殿下。実務上のトップ。
銀仮面の男 ギスカールの非公式の参謀。
カーラーン 銀仮面の男に仕えるパルスの万騎長。
ナルサス 智略に富む未来の宮廷画家。
ダリューン 黒衣の騎士。
ギーヴ 流浪の楽士。ファランギースのそばにいることができ、ルシタニア兵を倒せるという理由でアルスラーンに仕えることにする。
ファランギース 腰の下まで届く漆黒の髪、初夏の万緑のような瞳を持つ絶世の美女。
フゼスターン地方のミスラ神神殿の女神官。アルスラーンに仕える。
(名前や役職のみ)
パダフシャーン公カユーマルス
パダフシャーンの宰相
パルス王オスロエス五世
パルス王アンドラゴラス三世
シャプール ルシタニア軍にあっぱれと言われたパルスの将軍。
キシュワード パルス東方国境を守る万騎長。